昼から 小雨が雪となった
枯れはて、あばら骨をさらす老木は
雨に打たれ、こんどは雪に晒される。
しかし、八方に延びた小枝の先には、
目にはさだかに見えずとも
陽光がやってきたら、萌黄を吹き出そうと
待ち構えている命が隠れている。
よく見ると、ラクダ色に覆われていた薮にも
笹の緑が点々と群れをなしている。

見上げると灰白色に光る天から、
静寂に乗って舞い下りた雪片が、
眼下のせせらぎに溶け込み、
海原へ向かって旅立っている。

わたしという存在は、
いずれこの美しさを眼で味わうことができなくなる。
でも、落胆することはないのだ。
あなた達と離ればなれになることはないのだから。

わたしの体内でも 赤血球がはるかな旅を続けている。
もし私が、内側に眼が付いていたなら、
きっと このせせらぎのように美しい光景が見れるだろうに……

福寿草の蕾を見つけた！
凍てついた庭石の陰、霜柱で高々と盛り上がった土の割れ目から、
それと競うように にょきにょきと、
今年は 新しい仲間を引き連れて、やってきた！

朝の太陽に暖められ、柔らかく濡れて光った土。
逞しく毛の生えた茎の先には、
隠しきれずに側から、鮮やかな花弁をほころばせている。

あと一週間もすれば、
目の痛くなるような黄色い花が、ここらあたりに広がるのだ……
おっと！
君を見ているボクの影が、ごちそうの陽光をさえぎっていた。
あわてて ボクは側えとどいた。

春

春、両神山の山頂に
一雫の雨が落ちる。
ほどなく　百、千の仲間が集まり、
億、兆の隊となって、岩肌を滑り降りる。
せせらぎの潤いは　若葉に変身し地表を埋め尽くす。
せせらぎの雄叫びは　小鳥の囀りとなり空中に木霊する。
彼は下へ下へと若葉と小鳥たちを運び、
わたしたちの耕地を命で溢れさせるのだ。