夏の昼どき
川辺の大きな高い胡桃の樹 。
彼は青々とした緑陰をつくって私の暑さを防いでくれる。
黄色い蜂がやってきた。
蜂も樹も同じ一つの命を生きているのが解かる。 と、
……風が吹いてくる。
胡桃は体をゆすってダンスをはじめた。
千の葉を波のようにあやつって…

せせらぎは酸素をたっぷり含んだ血液となって、私の体をかけめぐる。
ボクは、はかり知れない恩恵を受けていることに気が付く

山はごちそうで あふれている。
澄んだ空気は、胸いっぱいの ごちそう。
小鳥のさえずりと 沢の響きは、耳への ごちそう。
そよ風と陽光は、肌への ごちそう。
ほの暖かく 柔らかい土塊は、手のひらの ごちそう。
ごつごつした岩は、踏みしめる 足への ごちそうだ。
そして 山の霊気は、なによりの 心のごちそうとなる。

いろんな ごちそうを 腹一杯たべてしまった僕は、
地球と同じ大きさまで ふくらんじゃった。

渓流をのぞんで腰を下ろす。
目前の流は山頂から伝わってくる、その先は天からやって来たのだ。
樹々たちは それを故郷に返そうとするかのように、
天を目指して伸び上がっている。

あっ 風が吹いてきた……
世界が動き出す！

せせらぎは若さと逞しさを増し、
梢の葉々や野草が、いっせいにおしゃべりを始める。
小鳥たちも飛び交いながらしきりに囀りを繰り返す、
ときどき 驚くほど大きな声となり、カンフルのように私の心臓を打ちつける。
光も射してきた……

すべての動作が寄り集まって、一個の命をつくりあげる。
――交響曲 ｢宇宙｣だ。 僕も曲の一部だ。

  ● あいさつを聞く

  ● 縁側で茶を飲む

  ● かたちの間に入る

  ● 工房に入る

  ● お台所に入る

  玄関にもどる